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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)2740号 判決

原告

日本信販株式会社

右代表者代表取締役

山田洋二

右訴訟代理人弁護士

山下俊六

柘賢二

柘万利子

被告

小澤敏彦

主文

一  別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件がいずれも原告の所有であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  訴え変更前の請求(以下旧請求という。)の趣旨

(一) 被告が訴外中野五郎に対する東京地方裁判所昭和五九年(モ)第一四五五号訴訟費用額確定決定の執行力ある正本に基づき別紙物件目録記載(一)の物件についてした強制執行は許さない。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  訴え変更後の請求(以下新請求という。)の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨及び訴え変更の申立に対する答弁

1  旧請求の趣旨に対する答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(三) (二)につき仮執行宣言

2  訴え変更の申立に対する答弁

(一) 訴え変更の申立を却下する。

(二) 訴え変更の申立費用は原告の負担とする。

3  新請求の趣旨に対する答弁

(主位的答弁)

(一) 原告の訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

(予備的答弁)

(一) 被告は原告に対し、原告が別紙物件目録記載(一)の物件の所有権を有することを確認する。

(二) 原告の別紙物件目録記載(二)ないし(六)の物件の所有権確認を求める訴えを却下する。

(三) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  旧請求の請求原因

(一) 被告は訴外中野五郎(以下訴外中野という。)に対する東京地方裁判所昭和五九年(モ)第一四五五号訴訟費用額確定決定の執行力ある正本に基づき別紙物件目録記載(一)の物件について強制執行した。

(二) しかし、別紙物件目録記載(一)の物件は、原告が訴外中野との昭和六〇年一月二三日付リース契約に基づき、同年三月一日訴外中野にリースした物件のうちの一つであり、その所有権は原告に帰属するものである。

(三) よつて、原告は被告が別紙物件目録記載(一)の物件についてした前記強制執行の排除を求める。

2  新請求の請求原因

(一) 別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件は、昭和五九年一二月ころ、訴外株式会社アイラブユー(以下訴外アイラブユーという。)が製造してその所有権を原始取得し、昭和六〇年一月に訴外株式会社東宝工芸社(以下訴外東宝工芸社という。)が売買により訴外アイラブユーからその所有権を承継取得したものである。

(二) 原告は、物件のリース等を業とする会社であるが、昭和六〇年一月二三日ころ、訴外東宝工芸社より別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件を購入してその所有権を取得し、同日ころ、訴外中野との間に右各物件を対象とするリース契約を締結し、同年三月一日、訴外中野に対し右各物件をリースした。

(三) 被告は、旧請求の請求原因(一)記載のとおり、別紙物件目録記載(一)の物件について強制執行したが、昭和六〇年七月二四日、右強制執行の申立を取下げた。

(四) 別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件は、昭和六〇年七月二七日ころ、従来の設置場所である東京都渋谷区道玄坂一―二二―五サンビル二階麻雀荘「フタバ」内から東京都台東区東上野三丁目一六番所在の訴外東宝工芸社内に移送され、現在同所で保管中である。

(五) 右の設置場所の変更は、右各物件のリース契約の借主である訴外中野が旧設置場所の店舗賃貸借契約終了により旧設置場所を明渡すこととなつたが、移転先が決つていなかつたので、移転先が見つかるまでの間暫定的に右各物件の原告への売主である訴外東宝工芸社で保管することとなつたものである。

(六) 被告は、その理由は不明であるが、右各物件のうち別紙物件目録記載(一)の物件についての強制執行を前記のとおり取り下げたが、依然として訴外中野に対する債務名義を有しているのであり、右各物件の所在が判明すれば、右各物件に対して再び差押えをする蓋然性が極めて強く、また、現在においても右各物件についての原告の所有権を認めない。従つて、原告は、被告に対し、右各物件の所有権を原告が有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  旧請求の請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)は認める。

(二) 同(二)は否認する。

2  新請求の請求原因に対する認否

(一) 請求原因(一)、(二)は不知。

(二) 同(三)は認める。

(三) 同(四)中、訴外中野が原告主張の「フタバ」内から退去し、現在「フタバ」内には別紙物件目録(一)ないし(六)の各物件が存在しないことは認めるが、その余は不知。

(四) 同(五)は不知。

(五) 同(六)中、被告が別紙物件目録記載(一)の物件についての強制執行を取り下げたこと、及び被告が訴外中野に対して債務名義を有していることは認めるが、別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件が原告の所有である旨の主張は否認する。

三  被告の主張

1  訴え変更の申立について

旧請求は、執行裁判所の専属管轄に属し、強制執行停止決定の当否を審理の対象とするのに対し、新請求は、被告の普通裁判籍所在地の地方裁判所または簡易裁判所の管轄に属し、強制執行停止決定の当否を審理の対象としないから、旧請求と新請求は請求の基礎に同一性がない。

また、旧請求も新請求も、原告と訴外中野が通謀して被告の訴外中野に対する債権の回収を妨害しようとするものであるから訴えの変更は許されない。

2  旧請求について

被告は、原告が訴え変更後の請求の請求原因(三)で主張するとおり、強制執行の申立を取下げ、別紙物件目録記載(一)の物件に対する執行は取り消されたのであるから、原告の請求は理由がない。

3  新請求について

(一) 原告の被告に対する別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件の所有権確認は、右各物件に対する強制執行手続が存続している限りで訴えの利益があるものであり、強制執行手続の存続していない現在、訴えの利益は存しない。特に、別紙物件目録記載(二)ないし(六)の各物件については、被告から何らの強制執行手続がなされたわけでもないのであるから、訴えの利益は存しない。別紙物件目録記載(一)の物件についても、被告は右物件が現在どこに存在するか不明であり、執行できる状態ではないので訴えの利益は存しない。

(二) 原告主張の原告と訴外中野との間のリース契約は、既に解除されているので、被告が別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件に対して強制執行を申立てる余地はなく、新請求は訴えの利益がない。

(三) 被告から強制執行手続がなされていない別紙物件目録記載(二)ないし(六)の各物件について所有権の確認を求める訴えは、公序良俗に反する権利の濫用である。

(四) 仮に、旧請求から新請求への訴えの変更が許され、別紙物件目録記載(一)の物件についての訴えの利益が認められるのであれば、被告は、前記(一)記載のとおり、右物件に対して執行できる状態ではなく、争う利益を失つているので、別紙物件目録記載(一)の物件については、新請求に対する予備的答弁(一)記載のとおりの裁判を求める。

四  被告の主張に対する原告の答弁全て争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一訴えの変更について

旧請求は、原告が訴外中野とのリース契約に基づいて訴外中野に貸していた別紙物件目録記載(一)の物件について、被告が訴外中野に対する債務名義によつて強制執行をしたので、原告は右物件に対する所有権を侵害されたとして右執行の排除を求める第三者異議の訴えであり、新請求は、被告が旧請求についての審理の途中で右強制執行の申立を取下げ、執行が取消されたので、右強制執行による所有権侵害の状態は解消したが、被告は右物件についての原告の所有権を認めて右強制執行の申立を取下げたわけではないので、再び右物件に対して強制執行の申立をするおそれがあるとして右物件について所有権の確認を求めるとともに、右物件と同一の経過で所有権を取得し、右物件についてのリース契約と同一のリース契約に基づいて訴外中野に貸与していた別紙物件目録記載(二)ないし(六)の各物件についても、被告から強制執行の申立を受けるおそれがあるとして所有権の確認を求める請求を追加したものであることは本件記録上明らかである。

右事実によれば、旧請求と新請求は、請求原因の主要な部分を共通にし、証拠資料も共通にするものであることは明らかで、請求の基礎は同一であり、著しい訴訟手続の遅滞を招くこともないものと認めることができる。

被告は、旧請求については専属管轄の定めがあり、執行裁判所の管轄の属するのに対し、新請求については地方裁判所または簡易裁判所の任意管轄に属するから、旧請求から新請求への訴えの変更は許されない旨主張するが、新請求は、旧請求の受訴裁判所である当裁判所以外の裁判所の専属管轄に属するものではなく、簡易裁判所の事物管轄に属したとしても民事訴訟法三〇条二項により当裁判所で審理、裁判することができるのであるから、被告の右主張は失当である。

また、被告は、旧請求も新請求も被告の訴外中野に対する債権の回収を妨害しようとするものであるから訴えの変更は許されない旨主張するが、右主張の趣旨が必ずしも明らかでないうえ、これを窺わせるような資料も存しないので、右主張も失当である。

従つて、旧請求から新請求への訴えの変更は適法であるから、以下新請求について判断することとする。

二新請求の訴えの利益について

被告は、訴外中野に対する債務名義により別紙物件目録記載(一)の物件について強制執行をしていたうえ、〈証拠〉によれば、別紙物件目録記載(一)ないし(六)の物件が原告主張の「フタバ」に備え付けられる以前に第三者によつて右「フタバ」内に備え付けられていた麻雀台に対しても、被告は訴外中野に対する債務名義によつて強制執行をし、右第三者が右強制執行に対して第三者異議の訴えを提起すると強制執行の申立を取り下げて右第三者異議訴訟で勝訴判決を得た経緯もあることが認められ、しかも、被告は、別紙物件目録記載(一)の物件の所在が不明で執行の申立ができる状態にないから争う利益を失つている旨主張しているだけで、右物件についても、また別紙物件目録記載(二)ないし(六)の各物件についても原告の所有権を認めているわけではないから、原告が、別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各物件について被告がさらに強制執行の申立をするおそれがあるとして、右各物件の所有権の確認を求めるのは、所有権に基づく妨害予防請求に準ずるものとして、その訴えの利益を認めることができる。このような所有権確認請求が許されないとすれば、執行債権者は、第三者異議の訴えが提起されれば強制執行の申立を取下げ、執行対象物件の所有権の帰属について裁判所の判断を得ることなく第三者異議訴訟に勝訴し、再び同一物件に対して強制執行の申立をすることができることになり、執行対象物件の所有者はいつまでも不安定な立場に立たされるという不合理な結果となるから、その意味でも、右のような訴えを不適法とすることはできない。

なお、新請求についての被告の主張(一)、(二)、(三)はいずれも失当であることは右に述べたところから明らかである(原告と訴外中野との間のリース契約が解除されたとしても、被告が原告の所有権を争う限りは訴えの利益はある。)。

被告は、新請求についての被告の主張(四)において、別紙物件目録記載(一)の物件については、その所有権の争う利益を失つているから、新請求に対する予備的答弁(一)記載のとおりの裁判を求める旨主張しているが、右は原告の所有権を認める旨の主張でもなく、また、認諾する趣旨の主張でもなく、ただ、現状では被告としては訴訟を継続する実益がないことを明らかにしたにとどまるので、被告が右のような主張をしたからと言つて、新請求の訴えの利益が失われるわけではない。

三新請求の請求原因について

1  新請求の請求原因(三)及び(六)のうち被告が別紙物件目録記載(一)の物件について強制執行を取り下げたこと、被告が訴外中野に対して債務名義を有していることは当事者間に争いがない。

2  〈証拠〉を総合すると、新請求の請求原因(一)、(二)、(四)の事実がいずれも認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  右1、2の事実によれば、原告の新請求は理由がある。

4  被告の主張は、いずれも訴えの変更及び訴えの利益に関するものであるが、仮に新請求の請求原因に対しても主張しているものと解しても、これが失当であることはこれまでに判示したことから明らかである。

四よつて、原告の新請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官福田剛久)

別紙物件目録

(一) 全自動マージャン卓雀酔 番号A―五〇三二三 一台

(二) 同右 番号A―五〇二六四 一台

(三) 同右 番号A―五〇二六六 一台

(四) 同右 番号A―五〇二七〇 一台

(五) 同右 番号A―五〇二八七 一台

(六) 同右 番号A―五〇三二四 一台

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